ホームページ制作を制作会社に依頼し、提案や見積もりをもらって、いよいよ契約へ。制作会社が決まったからと一安心したいところですが、契約書を結ぶまではなかなか安心できないのが、ホームページ制作の難しいところです。

契約書の確認をしっかりしておかないと、後々大きなトラブルに繋がる可能性もあります。私自身、ホームページ制作の業界に20年近く携わっていますが、その中でも契約書に関連して揉めやすい内容、よく聞くトラブルというものがいくつかあります。

今回は、安心してホームページ制作を進めるために、契約前に確認しておきたい重要なポイントを、事例を交えながらご紹介していきたいと思います。

まずは基本!成果物の範囲はどこまでか

まず基本中の基本ですが、「どこまでを成果範囲とするのか」は揉めるポイントの一つです。

一口にホームページの「成果物」と言っても、その内容は様々です。例えば、デザインだけを作成する契約なのか、その後の構築(コーディング)まで含まれるのか、さらにはお客様自身が更新できるような管理画面まで作るのか。もし管理画面を作るのであれば、その使いやすさの仕様はどうなっているのか。どこまでを成果物として納品してくれるのかを、まず最初に確認しなければいけません。

ここは明確に取り決めがされていれば、そこまで大きく揉めることはないかもしれません。ただ、実際に他社の事例では、この「成果物の範囲」の認識ズレがトラブルになっているケースもあるようです。

ですから、契約時には「どこまでが提出物ですか?」ということをきちんと確認し、可能であれば、具体的な作業範囲を示した仕様書を別途添付してもらうと良いでしょう

よくあるトラブルの代表格「修正回数」

これはホームページ制作業界に限らず、本当によくあるトラブルです。無償での修正を何度も要求され、問題になるケースはアニメ業界などでもニュースになっていますが、ホームページ制作の世界でも全く同じことが起こります。

クライアント側としては、修正回数を増やせば増やすほど、追加で費用がかかる可能性があることは頭に入れておいた方が良いでしょう。もし、制作の過程でかなり多くの要望を出すことが予想される場合は、初めから「修正回数無制限です」と謳っている制作会社に依頼するのも一つの手です。

ちなみに弊社の場合は、「最初に言われた仕様を満たしていなかった」というケースであれば、当然ながら修正回数は無制限です。一方で、打ち合わせを重ねて一度決まった仕様を、後からクライアント側の都合で「やっぱりこう変えたい」となった場合は、原則2回までとさせてもらっています。そして、それ以上は追加で料金がかかる旨をお伝えしています。

もちろん、事前に方向性をしっかり確認しているので、2回も修正すれば十分なはずです。「言ったことがやれていない」という制作側のミスは、当然修正回数にはカウントしません。あくまで、「言われた通りにやったのに、やっぱりやめた」と言われた場合に2回、というルールなので、そこまで無茶な条件ではないかなと思っています。

ただ、この修正回数に関する取り決めを曖昧にしている会社は本当に多いです。ですから、「契約書でどれぐらい修正できるのか」という点は、あらかじめきちんと確認しておくことを強くお勧めします。ここが原因で、お互いに嫌な気持ちになってしまうのは、本当にもったいないですからね。

複雑で揉めやすい「著作権」と「使用範囲」

著作権も非常に揉めやすいポイントです。ホームページというのは、文章、イラスト、写真、デザイン、プログラムといった、複数の要素の組み合わせで出来ています。そして、それら一つひとつに、著作権や使用範囲といった権利が関わってくる場合があるのです。

例えば、ホームページ用に作ってもらった制作物を、後から会社のパンフレットやチラシに流用しようとしたら、「別途利用料が必要です」と請求されたり、デザインの元データをもらうのは別料金だったりするケースがあります。

こうした後々のトラブルを避けるためにも、制作物に含まれる知的財産権(著作権など)の取り扱いや、使用できる範囲について、契約段階で明確にしておくことが非常に重要です

考えたくないけど重要な「途中解約」の条件

結婚する時に、離婚するときのことを考える人はいないでしょう。幸せの絶頂ですから、当然です。でも、万が一のことを考えて、結婚前に契約を結んでおいた方が良い、という話をよく聞きますよね。

ホームページ制作も、ある意味では同じです。もちろん、プロジェクトが途中で頓挫することなど考えたくありませんが、途中で解約せざるを得ない可能性はゼロではありません

その万が一の際に、「どこまで料金を支払う義務があるのか」を事前に決めておく必要があります。途中解約だとしても、契約した金額を全額支払わなければいけないのか、それとも、それまでにかかった作業分の支払いで済むのか。途中解約の場合の条件は、契約書にしっかり明記しておくべきです。これも、後々のトラブルを防ぐためにとても大切な項目です。

なぜか守られない「納期」の難しさ

続いては納期です。これは弊社のやり方が悪いと言われてしまえばそれまでかもしれませんが、正直に言うと、ホームページ制作において納期を守るのはかなり難しい問題です。ほぼほぼ、納期通りにはいきません。

なぜなら、ホームページというのは、制作会社だけで完成できるものではないからです。お客様のご協力があって、初めて完成するものなのです。例えば、制作会社がお客様の返事を待って作業スケジュールを確保していても、お客様からの素材提供や確認作業が1日遅れると、その分、制作会社の作業日も後ろにずれてしまいます。

家の建築で考えると分かりやすいかもしれません。大工さんが「今日から作業に入ります」とスケジュールを空けて待っていたのに、施主が「内装をもうちょっと考えたいな…」と悩んで指示出しが遅れたとします。本来10日間の工期だったものを、施主が5日悩んでしまったからといって、「残りの5日間で建ててください」というのは物理的に無理な話です。かといって、「じゃあ今日から10日間、改めて確保してください」と言われても、大工さんは「次の現場がもう始まっていますので…」となってしまいますよね。

ホームページ制作もこれと全く同じで、お客様の都合で遅れた分、制作期間が圧迫されてしまうのです。

もし、クライアントとして納期を100%守ってほしいという強い希望がある場合は、「どういう条件の時に、納期を超えたらペナルティが発生するのか」を契約書できちんと明記した方が良いでしょう。ただ、ホームページ制作とはそもそも遅れやすい性質のものだ、と思っていただいた方が、心理的なストレスは少ないかもしれません。

完成後も続く関係「保守契約」と「契約不適合責任」

ここからは、ホームページが完成した後の話です。一つは「契約不適合責任(昔でいう瑕疵担保責任)」について。

これは、例えば「完成後1ヶ月経ってから、最初に言っていた仕様と違う箇所を発見した」といった場合に、無償で直してもらえるか、という問題です。この契約不適合責任が適用される期間がいつまでなのか、つまり、完成後いつまでに見つけた不具合なら修正してもらえるのかを、契約書で確認しておきましょう。

もう一つは「保守」です。こちらは不具合というより、「完成後にやっぱりここの文章を直したい」といった要望にどこまで対応してくれるか、あるいはシステムに不具合が起きないようにどういったメンテナンスをしてくれるのか、といった内容です。これらも事前に契約書で取り決めておいた方が良いでしょう。

意外な落とし穴「サーバー」と「ドメイン」の所有権

これは我々プロからすると少し考えづらいのですが、実際に起こっているトラブルであり、弊社にお問い合わせいただくお客様の中にも、この問題を抱えている方がいらっしゃいます。

まずはサーバーの問題です。現在の制作会社から別の会社に乗り換えようとした際、ホームページのデータが制作会社の管理するサーバーに入っていることがあります。そのデータを自社で契約した新しいサーバーに移そうとしたところ、「このサーバーからデータを出すことはできない」と断られたり、「データを移行するには数十万円、数百万円かかります」と高額な費用を請求されたりするケースがあるのです。こうなると、新しいホームページができるまで高額な契約を続けるか、一時的にホームページが見えなくなる状態を受け入れるか、という厳しい選択を迫られます。

もう一つはドメインです。「面倒なことは全部やりますから、お客様は成果だけ受け取ってください」といった甘い言葉には注意が必要です。気づいたら、ホームページの住所であるドメインの所有権が、制作会社の名義になっている場合があります。ドメインの所有権が自社にないと、これまでお金と時間をかけて検索順位を上げてきたとしても、制作会社との契約を解消した途端、そのドメインが使えなくなり、検索順位もまたゼロからやり直しになってしまうのです。これは企業にとって、計り知れない損害です。

サーバーの管理や、ドメインの所有権は必ず自社で保有しておくべきですので、このあたりの取り扱いが契約上どうなっているかは、絶対に確認してください。

まとめ:契約書は後々のトラブルを防ぐためのもの

今回は、ホームページ制作の契約で特によく聞くトラブルのポイントを7つご紹介しました。

もちろん、これ以外にも裁判の管轄をどこにするか、支払いのタイミングなど、細かい点は色々とあります。

過去に一度だけ、弊社でも納期で大きな失敗をしたことがあります。担当者がお客様の案件を完全に失念してしまったのです。これは完全にこちらが悪いということで、費用は一切いただかずに最後まで制作させてほしいとお願いしたのですが、最終的には全額返金で手打ちとなりました。

このように、どんな会社でもミスが起こる可能性はあります。だからこそ、契約書というものが存在するのです。契約書は、お互いを縛るためだけのものではなく、万が一の際にお互いが不利益を被らないようにするための、強力な拠り所となります。

これからホームページ制作を依頼される方は、ぜひ今回ご紹介したような点を意識して契約内容を確認し、後々トラブルにならないよう、素晴らしいホームページを完成させていただきたいと思います。